地域学の創造(ミュージアム研究)

ミュージアムの研究が目指すもの

顕著な地球環境の変調は、生態系に影響を及ぼし、地球規模での生物多様性喪失の危機を招いています。現代は第6 の大量絶滅時代ともいわれ、生物多様性を基盤とした現代社会そのものの存続が危ぶまれています。

一方、静岡県は東西に広い面積を有し、日本で唯一の標高差6,000mを超える多様な地形を有します。南アルプス、富士山、かつての火山島としての伊豆半島、駿河湾、遠州灘、浜名湖など、極めて変化に富んだ景観がその代表的なものです。それゆえ、植物、昆虫等の生息する種類が全国で1、2番目に多いとされています。また、現在の種類数だけでなく、フォッサマグナ地域を中心に東北日本と西南日本の動植物相の不連続性が見られることや、海洋では北方系の種と南方系の種が混在することなど、生物地理学的な見地においても、日本列島の生物多様性を解明する上で極めて重要な地域です。

ミュージアムには、静岡県、ひいては日本列島、地球全体の生物多様性を守り、自然と人間が共生可能な生命文明社会を構築する責務が与えられています。その中で、地域創生が叫ばれるポスト東京時代に、これからの地域の時代を地球環境の保全を担うべき自然と共に生きていくための新たな学問を創造します。
それが、グローバルな視点に基づいた「地域学」の創造です。

地球環境や未来を知るために、ローカルの自然を徹底的に研究するという新しい視点をもつミュージアム研究は、これからのグローバルな指針になります。そして、生命文明の構築という人類の至上課題に対して、自然環境保全の「地域学」を創造することは、地方の博物館が果たすべき研究の新しい潮流になるべきと考えます。

執行体制

ミュージアムの調査研究は、自然環境のメカニズム及び人と生態環境の関わりを明らかにする「分野別研究」と現代の社会ニーズに応える超学際研究である「総合研究」の階層的体系で取り組みます

分野別研究

ふじのくにの地域性を紐解く3つの柱:(1)生物(生物多様性の理解と保全)、(2)大地(大地環境変動の復元と予測)、(3)人類(人類史の解明と創造)を中心に展開します。

(1)生物 生物多様性の実態把握
各地域の生物多様性を種多様性および遺伝的多様性という2つの視点から解析します。特に静岡県に特徴的な分類群とその類縁種については生物地理学的解析により、その起源と変遷を明らかにします。
(2)大地 大地環境変遷の詳細な復元
後氷期以降の地形(景観)発達過程、気候変動を高時間分解能で復元するとともに、人類も含めすべての生物相に影響を与える海溝型地震津波・火山噴火などの自然災害履歴を高精度に復元します。これら大地で生じてきた環境変動が、多様性の種類や絶対数の地域格差に対して、どの程度の影響を与えたのか解明します。
(3)人類 人間活動履歴の復元
近年の生物多様性の劣化に対して人間活動が与えた影響の程度について、地域格差の観点から検討します。加えて、古人骨の自然人類学的検討による歴史的な視点も組み込んで総合的な解明を試みます。

客員研究員制度

ミュージアムでは、知の拠点化を目指すため、客員研究員制度を設けます。本制度は、他所属等の研究者とミュージアムの研究員とが、対等の立場で共通の課題について共同研究に取り組み、優れた研究成果を生み出すことを目的とした制度です。